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東京家庭裁判所八王子支部 昭和53年(家)2441号 審判

主文

申立人と相手方との間の昭和五二年(家イ)第七四八号内縁関係解消に件う財産分与調停事件は、昭和五三年七月二〇日、審判に移行することなく、調停が成立しないものとして事件が終了した。

理由

1  申立人は、昭和五二年六月一七日、当裁判所に対し、相手方との家事調停の申立をなし、当裁判所昭和五二年(家イ)第七四八号内縁関係解消に伴う財産分与調停事件(以下本件調停事件という)として受理された。

申立人の本件調停申立の趣旨は、「相手方は申立人に対し内縁解消に伴う財産分与として別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)について持分三分の二を分与する」旨の調停を求めるというのであり、申立理由の要旨は、

「(1) 申立人は昭和三五年九月以降昭和五一年一〇月頃まで約一五年間に亘つて相手方と同棲関係を継続してきた。申立人には妻坂本カヨがあるが、申立人は相手方との同棲当時事実上妻との離婚手続を経たうえで、相手方との共同生活を開始し、一生夫婦として生活するとの合意を前提として約一五年間公然と共同生活をしてきたものであり、妻との婚姻は戸籍上形骸を止めるにすぎない。しかるに、相手方は、昭和五一年九月申立外森田誠と結婚し、申立人と相手方との本件内縁関係は、一方的に相手方によつて破棄され、解消するに至つた。

(2) 申立人は、申立人所有の土地上に存した申立人所有の旅館「○○」を取り毀し、昭和四六年七月、同土地上に本件建物(自宅・賃貸用の共同住宅「○○マンション」)を新築した。本件建物は、所有名義は相手方となつているが、本件内縁関係継続中に形成された申立人と相手方との共有財産であり(申立人と相手方との共有の金員が、建築資金とされた等の事情がある)、申立人は三分の二の持分を有するものであるから、本件内縁関係解消に伴う財産分与として、申立趣旨記載の調停を求める」というのである。

2  そこで、当裁判所調停委員会(後に家事審判官の単独調停)は、調停を進めたが、昭和五三年七月二〇日、当事者間に合意が成立する見込がないと認め、調停が成立しないものとして事件を終了させた。

ところが、本件調停事件は、審判に移行したものとして取扱われ、爾来昭和五三年(家)第二四四一号審判事件として手続がすゝめられてきた(当事者から審判申立がなされている事件ではない)。

よつて、審按するに、本件記録添付の各戸籍謄本、家庭裁判所調査官○○○の調査報告書、申立人及び相手方各本人尋問の結果、その他一件記録によれば、申立人には、大正一三年二月二一日結婚した妻坂本カヨが存し、その間に長女順子、二女美沙子をもうけており、この婚姻関係は現に存続していること(申立人と相手方とが情を通じたことなどにより、上記婚姻関係が疎遠となつていることはあるが、戸籍上の形骸のみというものでは到底ないし、申立人自身、妻と離婚することは、妻の反対もあつて、できないと述べて居り、坂本カヨは、家庭裁判所調査官に対し、「一〇年位してほとぼりが冷めたら、時々申立人がやつて来るようになつた」旨述べている、また甲一五号証の申立人の遺言公正証書(昭和五二年五月一八日付)には、相続人として遺言者の妻坂本カヨと明示されている)、申立人は、昭和三六年九月頃から、相手方と情を通じ、昭和五一年九月頃迄の間、相手方と婚姻外の同棲生活を続けたが、相手方は申立人に上記妻女が存することを知つており、いわゆる妾の関係、婚姻外の愛人関係と承知しつつ申立人との同棲生活をつづけてきたものであること(相手方自身、「私共二人の関係は、妾的関係と思います」旨、また「私が坂本と別れたのは、息子彰の結婚のためで、母の私が妾のような存在では子供の結婚に差支えると思い申立人に相談したが、子供を入れて話合おうとか、脅迫するようになつたので、私が出た」旨述べている)が認められ、その他本件全資料を検討するも、申立人と相手方との間に内縁関係(法律上の婚姻関係に準じて取扱われるべき事実婚その他の関係(準婚関係)をいう)の存在を認めることはできない。

すると、本件調停事件は、家事審判法九条一項乙類五号に定める民法七六八条二項の規定による財産の分与に関する処分(以下財産分与審判事件という)についての調停事件にはあたらないし、その他、本件調停事件が家事審判法九条一項乙類に規定する審判事件にあたると認むべき資料は全く存しない。しからば、本件調停事件が、上記のとおり調停不成立によつて終了した際、家事審判法二六条に則り調停申立の時に審判の申立があつたものとみなされて財産分与審判事件として審判手続に移行し係属するということはないのである(申立人の主張する本件建物の共有持分に関する法律関係は、民事訴訟事項といわねばならない)。

3  以上の次第で、本件調停事件は、昭和五三年七月二〇日、審判に移行することなく、調停が成立しないものとして事件が終了しているものであるから、その旨を宣言して、一見審判に移行し係属しているごとくに処理され手続がすゝめられた本件審判事件が、その実、審判移行・係属にかかるものでないことを明らかにすべく、よつて、主文のとおり審判する

(東京高裁 昭和五三年(ラ)四六〇号 昭和五三年五月三〇日民事一六部決定参照)。

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